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福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)665号 判決

控訴人 有限会社倉内商事

右代表者代表取締役 田中信博

被控訴人 高山宗一郎

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者の主張及び証拠関係

次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。但し、原判決二枚目表二行目の「花田清之」を「花田清六」と訂正する。

1  控訴人の主張

(一)  被控訴人は、訴外花田照子、同花田儀一郎ほか二名を相手として、本件仮処分の被保全権利を本案とする訴訟を提起し、同訴訟は福岡地方裁判所昭和四二年(ワ)第六四三号所有権移転登記手続請求事件として係属したところ、同五一年二月二四日、同裁判所において、被控訴人は本件物件につき所有権を有しないとして、請求棄却の判決が言渡された。被控訴人は同判決に対し控訴したが(福岡高等裁判所同五一年(ネ)第一二四号事件)、同裁判所は、同五三年一〇月一二日、控訴棄却の判決の言渡をしたところ、更に、被控訴人は、同判決に対し上告したが(最高裁判所同五四年(オ)第五二号事件)同裁判所は、同五四年七月六日上告棄却の判決を言渡した。

(二)  以上のように、被控訴人主張の本件仮処分の被保全権利は、その本案訴訟においてその不存在が確定したのであるから、被控訴人は、本件仮処分権利者であることを理由として、第三者異議の訴を提起することは許されない。

2  被控訴人

控訴人の右主張は争う。

3  証拠関係《省略》

理由

一  被控訴人は、昭和四一年一月一七日、訴外花田清六を債務者として、本件物件につき、譲渡その他処分禁止の仮処分決定を得てその執行をしたこと及び控訴人が、昭和五二年六月二八日宗像簡易裁判所昭和五一年(ロ)第一六九号督促手続事件の仮執行宣言付支払命令の正本に基づき、前記訴外人の相続人である花田照子、花田儀一郎に対する強制執行として、本件物件の差押えをしたことは、当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

1  被控訴人の前記仮処分は、被控訴人が、昭和三一年三月三一日、訴外花田清六から本件物件を買受けてその所有権を取得したが、同人においてその所有権移転登記手続に応じないとして、被控訴人の同訴外人に対する同請求権を保全することを目的としてされたものであった。

2  被控訴人は、前記仮処分決定を得た翌年である昭和四二年花田清六を被告として、福岡地方裁判所に対し、本件物件は右花田清六からの売買等によって、その所有権を取得したと主張して、所有権移転登記手続請求の訴訟を提起し、同事件は同裁判所同四二年(ワ)第六四三号事件として係属したところ、同裁判所は、同五一年二月二四日、本件物件について被控訴人の所有権取得は認められないとして、被控訴人の請求を棄却する旨の判決をした(右訴訟係属中、花田清六死亡のため花田照子、花田儀一郎ほか三名がその相続人として同訴訟を承継した。)。被控訴人は、右判決に対し控訴し、同事件は福岡高等裁判所同五一年(ネ)第一二四号事件として係属したが同裁判所は、同五三年一〇月一二日、控訴棄却の判決をしたところ、更に、被控訴人は同判決に対し上告し、同事件は最高裁判所同五四年(オ)第五二号事件として係属したが、同裁判所は、同年七月六日、上告棄却の判決をした。

3  以上のように、被控訴人は、仮処分の被保全権利に関する本案訴訟において敗訴し、同五四年七月六日、本件物件についての被控訴人主張の被保全権利の不存在が確定した。

三  一般に、債務者に対し譲渡その他処分を禁止する旨の仮処分の執行がされた場合、それに反してされた債務者の処分行為は仮処分債権者に対抗し得ないのみならず、仮処分の目的物に対する一般債権者の強制執行による処分も、債務者による処分行為と同様に、仮処分債権者に対抗することができないものと解すべきであるから、仮処分債権者は、仮処分による被保全権利と相容れない範囲において、同強制執行に対し第三者異議の訴を提起してその執行の排除を求めることができるものというべきである。しかし、仮処分債権者の右異議も、仮処分によって保全されている被保全権利と相容れない範囲においてのみ許容されるにすぎないところ、本件についてみるに、前記認定のように、被控訴人は、本件仮処分の被保全権利に関する本案訴訟において敗訴し、被控訴人の本件仮処分によって保全されていた被控訴人の本件物件に対する被保全権利の不存在が確定したものである以上、たとえ被控訴人の申立にかかる前記仮処分が取消されることなく残存していても、控訴人の本件強制執行との関係において、被控訴人を仮処分権利者として保護する必要性はもはや存しなくなったものというのほかはないから、被控訴人は、前記仮処分の存在をもって、控訴人の本件物件に対する強制執行に対し第三者異議を主張して、その執行の排除を求めることは許されないものというべきである。

よって、被控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきである。

四  そうすると、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は失当であって、控訴人の本件控訴は理由があるので原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤次郎 裁判官 原政俊 寒竹剛)

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